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航空性中耳炎

航空性中耳炎は飛行時大気圧変動に伴う機内の圧変動に中耳腔圧との圧差が生じ耳症状を生じる疾患です。飛行機が上昇すると気圧が低くなり、中耳腔:鼓室と乳突蜂巣の空気は膨張し鼓膜が膨隆します。ある程度の圧になると過剰な空気は自然と耳管から流出し、また嚥下により耳管が開き、大気圧と中耳腔圧のバランスが保たれます。

下降時には中耳腔の空気が縮小し中耳腔が相対的に陰圧となります。通常嚥下すると耳管が開き中耳腔と大気の圧は平衡になります。

 

耳管が開かないと中耳腔が陰圧となり、その状態が酷くなると中耳腔の粘膜から滲出液が露出してきます。

 

中耳腔が相対的陰圧になると様々な症状が生じます。

(山口展正:航空性中耳炎に関する基礎的ならびに臨床的研究. 耳展,1986より引用)

戦闘機などの急激な上昇・下降を行う乗務員は耳管機能が良好でないと重篤な耳症状(めまい、激痛を伴う耳痛、内耳障害など)を生じることがあります。一般乗客の治療は原則として保存的であり、ほとんどが予後良好です。

航空性中耳炎の鼓膜所見

鼓膜内陥、血管の拡張、鼓膜内出血、中耳貯留液(漿液性、血性、膿性)、鼓膜穿孔などの有無を判定する。鼓膜発赤所見は硬性内視鏡を用いると鼓膜の血管拡張であることが確認できます。 
潜水艦の乗務員の気圧性中耳炎に関するTeedの分類(1944年)が知られています。

  • Grade 0:鼓膜正常。
  • Grade I:シュラップネル膜と槌骨柄に沿う発赤を伴う内陥。
  • GradeII: 鼓膜全体の発赤を伴う内陥。
  • Grade III:Grade II+中耳腔への貯留液。
  • Grade IV:hemotympanum(血性鼓室)、鼓膜穿孔。

硬性内視鏡を用いた鼓膜所見

Grade 0

鼓膜正常、軽度内陥(図4a)、笹木の提唱するいわゆる航空性中耳症に含まれる。通常は予後良好な自然経過をたどる。

Grade 1

槌骨柄に沿う血管の拡張から上後方へむかう血管の拡張、鼓膜の内陥。血管の拡張は鼻内・上気道感染が著しくなければ一週間以内に改善する。

Grade 2

鼓膜全体の発赤(鼓膜緊張部の毛細血管の拡張、充血)を伴う内陥、鼓膜弛緩部の内陥、槌骨柄に沿う線状出血、点状出血。無自覚性航空性中耳炎(図4b):3歳児(図4b1)、翌年4歳のときも同様に飛行機にて帰省後来院、飛行時疼痛ないが共に槌骨柄に沿って内出血があり、4歳児のとき鼓膜後上方部に血液が分離したと考えられる黄色の物質が認められた(図4b2)。鼓膜内出血が認められても成人、小児ともに症状を訴えないことがある。内出血は翌日黒ずみ2,3週間で吸収・消失する。

Grade 3

鼓膜発赤を伴う内陥および中耳貯留液(図4d硬性内視鏡を用いることにより発赤は血管の拡張である。)

Grade 4

hemotympanum(血性鼓室):出血の翌日以降鼓膜弛緩部から緊張部ともに黒ずみ槌骨短突起が白く浮き上がって見える(chalk white appearance、図4e)。中耳腔の血液が耳管咽頭口から排泄され、咽頭出血あるいは鼻出血と訴えることがある。
鼓膜穿孔の有無:Teedの分類ではGrade 4に属するが、激痛、頭痛を伴う炎症の強い症例と自覚症状の乏しい症例がある。飛行中軽い耳痛がありそういえば「パチン」と音がしたとのこと、来院時鼓膜穿孔縁が鮮明な穿孔を認めたが(図4f)、数日で自然閉鎖した。 

 

一般乗客の治療は、原則として保存的に行い、予後は殆ど良好です。飛行は耳管機能の圧負荷試験の状況に相応するため、それにより耳障害を生じたことは耳管機能に異常があることを意味します。その誘因となったアレルギー、上気道感染の治療を行います。
客室乗務員は多いときには一日3、4回飛行するため航空性中耳炎に罹患後、耳管機能が改善してから飛行するのが望ましいです。スケジュールにより現状として難しい面もあります。原則として保存的治療ですが、移動先で激痛、勤務中断、鼓膜切開をせざるを得ないこともあり、反復性・難治症例では鼓膜換気チューブを留置することもあります。

誘因となる上気道感染の治療を行い、比較的安全な耳抜き( modified Toynbee法、受動的・能動的耳管開大を利用した方法:図参照)を指導し、同法を習熟してから勤務するのが望ましいです。

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